偽りのシステム86



 言うやエナは、大地の先まで延々とつながる黒々としたケーブルに手をやった。

「何をするつもりだ、エナ?」

「ちょ……ちょっとだけ黙っててくれる? 今、各所にアクセスを試みているところだから」

「各所?」

「うん……。この三次元ネットに繋がりにくい状況だから、ちょっとだけ時間が掛かっちゃうけど……」

 エナは、そう言って大地に膝をつき、まるでぜんの精神統一でもするかのように押し黙った。

 この時、エナの意識は三次元ネットワークを通じて、ヴェルデムンド世界や地球の状況を把握しようとした。しかし、さすがの天才少女とは言えど、この短時間に全てを把握することは無理である。いくら肉体が滅び、電脳世界の意識体としてしか存在していない彼女であろうとも、まだ彼女は人間としての殻から脱していない。それ以上でもそれ以下でもないと無意識に思い込んでいるのだ。

 それでもエナはあきらめなかった。彼女は、何より羽間正太郎の力になりたかったのだ。

「ううーん……」

 エナは目をつぶりながら、ふらふらとその場に倒れ込んでしまった。

「だ、大丈夫か、エナ!?」

 正太郎が咄嗟に抱きかかえる。

「ちょ、ちょっと……無理しすぎちゃったかな。いくら電脳世界の意識体だからと言っても、何でもありってわけじゃあないみたい……」

「少し休め! 俺ァまたお前も失うわけにはいかねえ!」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない……。あたしにとって、そういう言葉が一番の栄養源なのよ……」

 言ってエナは、再び黒いケーブルに手を添える。

「だから無理すんなって!!」

「うん、大丈夫よ。さっきのは要領が悪かっただけ。もうやり方は心得たわ」

「もう? あんな短時間で?」

「誰にものを言っているの? あたしは〝ノックス・フォリーのアマゾネス〟こと、天下のエナ・リックバルトよ。これでも天才少女ともてはやされたことがあるんだからね」

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