偽りのシステム87


 そう言ってエナは、再度三次元ネットワーク上に意識を巡らせた。

(さっきは、所々に意識を持って行ったから疲れちゃったんだわ。今度はそんな非効率なことはしない。全ての状況を俯瞰するみたいにすればいいんだわ……)

 エナの目的は、現在の状況の把握をすることだけではない。この状況を観察するの居場所を突き止めることである。

 そしてさらに、

(ここに、あの第十八特殊任務大隊を呼び込めば、もしかしてショウタロウ・ハザマが生き残るすべが見つかるかもしれない。少し危険な賭けかもしれないけど、やってみる価値は大いにアリよ。だって、話によれば第十八特殊任務大隊の人たちは、みんな半分以上を機械に変えてしまった人たちなんだもの……)

 彼女が当初考えていた作戦は、彼ら第十八特殊任務大隊の思考を三次元ネットワーク上から乗っ取り、ありもしない現実を見せて幻惑しようとするものである。それならば、たとえ彼ら〝十八番おはこ〟の大隊が屈強な手練れであっても、力を十二分に発揮することが出来ないと考えたのだ。

 しかし、この状況にあっては、それを大いに利用するしかない。試せるかどうかは未知数であるが、二人対第十八特殊任務大隊という圧倒的不利な状況にあっては、こうするしか方法が無いのだ。

「お、おい、大丈夫かエナ!? またふらついているぞ!? 無理するんじゃねえ!!」

 要領を得たとは言ったものの、まだまだ彼女の技術は未熟そのものであった。そして感覚的な部分も不明瞭だった。言葉を変えれば、まだ当てずっぽうの手探り状態。ついこの間まで人間であっただけに、ヴェルデムンド世界や火星くんだりまでめぐらした三次元ネットワークの全てを俯瞰することは、自我を保てなくなる原因となる。つまり、逆を考えれば始祖ペルゼデールとは、自我を持たず、さらには他者への愛情など微塵も持たない、単なる観察者的存在なのだ。

「う、うーん……」

 彼女は、正太郎の分厚い胸板に倒れこんだ。

「お、おい! だから無理すんなって……!!」

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