偽りのシステム68


 正太郎は、出来るだけ早く自らの肉体のある場所を探し当てるべく事を急いだ。

 しかし、彼の見立てでもこのドーム球場が数百個も入るようなスペースから、彼自身の肉体を探し出すのはかなり困難だった。

「エナ! そっちはどうだ!? 何か手がかりはあったか?」

「いいえ、ダメよ。いくらあたしでも、こんな広い場所からあなたの本体のある場所を特定するすべなんか持っていない……」

「クソッ、なんてこった! こんな時間がねえって時によ! 焦れば焦るほど気が変になって来るぜ」

 二人は同時に同じところを探索するのではなく、通信で意思疎通をしながら両側からまんべんなく調べていた。

 しかしどうしても探し物が見当たらない。正太郎の囚われた時の姿は全裸であるのだから、それなりに目立つと考えていた二人だったが、ここまでカプセルが無数に並んでいると、それも大して大きな目印とはならなかったのだ。

「どうしよう。こんなことをしてたら、ざっくり計算しても、あとひと月以上は掛かっちゃうわ」

「そうだな。時間に余裕がねえから、そんな悠長な探し方じゃ誰ひとり救えやしねえ……」

「もう他人を救えるか救えないかの問題じゃないわ。ここブラフマデージャ跡地が焼け野原になっていまえば、おのずとヴェルデムンドの生態系に支障を来すんだもの」

「そうだな。かつて森の都と称されたこのブラフマデージャの最大の利点と言えば、どの寄留地にも繋がる大水脈だ。この水脈があったからこそ、ブラフマデージャはもっとも美しい寄留地と呼ばれたんだ」

「そんな寄留地があんなことになって、それで……」

「それでまたここを焼け野原にしちまうなんて許せねえ。何てったってここは……」

「そう、あなたをとことん愛して死んでいったアイシャさんの第二の故郷だものね……」

「ああ……」

 

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