偽りのシステム69


 正太郎がエナに相槌を打った、その時である。

「な、何だ……!?」

 またもや正太郎の胸に衝撃が伝わって来た。しかし今度は、太鼓のバチで叩かれたような痛みではなく、まるで爛々ときらめく夏の陽の光のような熱い鼓動めいたものである。

「ど、どうしたの!? また痛むの!?」

「い、いや、今度はそうじゃねえ。何かまるで、優しいひと肌に触れているような、まるで優しい何かに包まれているようなそんな感じなんだ」

「ひと肌ですって!?」

「そうだ、ひと肌だ。そして俺はこのひと肌の感覚を知っている。どこかで何度も触れ合った感覚だ……」

 正太郎はその場に膝をつき、両目をむき出しにして過去の記憶をさかのぼろうとする。

 そこでエナはハッとした。

「もしかして、それって……!!」

 彼女が言葉を吐こうとした時だった。刹那、彼女の脳裏に再び何処からともなく映像が送られてくる。

「どうしたんだ、エナ!?」

「来たわ、来たのよ!! あなたの居場所の映像が、また送られて来たのよ!!」

「何だって!? じゃ、じゃあ……」

「ああ、なんてこと! そういうことね。だから見つからなかったんだわ。そう、そうなの。ええ……」

「お、おい、エナ!! お前、何ひとりごとほざいてんだ!? 誰としゃべってんだよ!?」

 正太郎は怪訝な表情で問うた。どうやら、エナが送られて来た相手と何やら会話を始めたようだったからだ。

 しかし、エナはまだ情報の送り主と意思疎通を止めなかった。どういうわけか、会話中のエナの表情は笑みに満ち溢れていた。

「そうね、そうそう。分かるわ、その気持ち。お互い大変よねえ、もう。ホント、厄介な人を好きになってしまったものねえ」

「何だよ、何なんだよ! 早くしろよ、エナ!! 一体何を語り合ってんだよ!?」

 イラつき気味の正太郎を横目に、エナはほくそ笑む。

「ねえ、あなたとこうして話すのは初めましてだけど、まるでそんな気がしないわ。そうね、そうするわ。ご忠告ありがとう、親愛なるアイシャ・アルサンダールさん」


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