偽りのシステム㊹


 ※※※


「可能性だよ、可能性!! 可能性の問題なのだ!! あのヴェルデムンドの背骨折りがどこかで生きている限り、吾輩の全ての計略がご破算になってしまうかもしれん!! あ奴にはそういう可能性がある!! 見ろ、あ奴のこれまでの経歴を!! 先の戦乱での終結不可能とまで呼ばれたゲッスンの谷攻防戦、そしてつい二年前に起きた、ここペルゼデール・ネイションでの凶獣どもの大襲来!! あれらのような遂行不可能なはずのミッションを、奴はことごとくやり遂げ、全て跳ねのけて見せたのだ!! それは悪魔の所業にも等しい!! ゆえにあ奴は、この神に選ばれし吾輩とは双璧を成す男だと言うことだ!! つまりは、この永遠の楽園をもおびやかす存在になり得る話だ!! さあ、探し出せあ奴を!! あの楽園の危険分子たる男を即刻探り当ててこの世から葬り去るのだ!!」

 シュンマッハの鼻息は相当な物であった。

 自らの考えに背くものは、否応なしに処刑を繰り返し、さらには危険分子の排除のみならず、その要因を少しでも持つ者は収監し即時洗脳を行う。

 これは、どんなに時を経て科学が発展して来ても、人類創生以来より何も変わらない事象だった。ただその方法が少しだけ違うだけ。独裁者というものは、もとより人をみ、人を操ろうとする習性がある。自分だけを愛するような行動を取っておきながら、その実は自分自身すら信じていない。

 自分自身を信じていないのは、自分自身に本来の意味での自信がないことの証明でもある。なぜなら、自分自身の力に何らかの確証を得ていれば、他者に怯える必要がないからである。言わば、〝三百六十五日〟を積み上げて来なかった者のおびえとも言える。

「ええい! まだか、まだなのか!? あ奴らは何処に隠れておる!! 何処から吾輩を見ている!? うん? 貴様、今吾輩の顔を見てほくそ笑んだな? 打ち首だ!! そんな貴様は、貴様の親類縁者ごと根絶やしにしてやる!! 何をしておる、このボンクラども!! 即刻そ奴を始末せい!!」


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