偽りのシステム㊸



「でも、そんなことを考えて有頂天になってしまった人たちはかなり昔からいる。永遠の命と支配。自分の思い通りにしかならない永久の楽園。果てしない自我の欲求の向こう側を求めて、ね……」

 エナは、正太郎の瞳をまじまじと見つめた。正太郎は、それを真剣に見返した。

「ああ、そうだ。どうあったって、俺たちの世界は時間という呪縛からは逃れられねえ。それを求めた偽りの世界がこの仮想空間だ」

「でも、これを司っている浮遊戦艦側の人たちは、そう思っていないでしょうね。これこそが時間の支配であり、永遠の理想郷だと……」

「そんなわけあるか! 俺たちは人間だ。生き物なんだ。人類が生き物である以上、生物的呪縛からの逸脱は絶対あり得ねえ! もし、そんな呪縛から逃れられたのだとしたら、それは最早人間なんかじゃねえ!! 別の生き物だ!!」

 そこでエナは少し悲しい表情で押し黙った。

 正太郎は、そんなエナの機微をさとり、

「す、すまん、エナ、今のは言い過ぎた。お前のことも考えずに……」

「ううん、いいのよ。あたしはもうこんな状態で、仮想空間にしか生きられないけれど、それでもいつでもあなたには会える。それだけでも不幸中の幸いと言うものよ」

「エナ……」

 二人は立ち止まり、そして空を見上げた。仮想空間の中ではあるが、そこには爽やかな風に煽られた真っ青な空が広がっている。

 エナは、正太郎に問う。

「ねえ、ショウタロウ・ハザマ。これであなたは、迷うことなく戦えるのね。何があっても気兼ねなく……」

「ああ、戦える。俺ァ、俺がこの世界に生まれ出て来た意味を完全に理解出来た」

「そう、あなたの生まれ出て来た意味」

「そうなんだ。俺ァ、システムによって狂わされた世界を、自然の時間軸に戻す役割を背負って生まれて来たんだ」


 ※※※





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