偽りのシステム㊷


「いや、エナ。それが道理なのさ。ところ変われば品変わるってな。昔から馬鹿とはさみは使いようって言ってな。まあ、天才少女のお前なら言わずもがなだが、俺みてえな男でも、時代がそういう流れになりゃあ何かと使い道はあるってもんだ。それが俺の存在価値。不具合バグとして生み出された役目ってもんだろ?」

 正太郎は、己自身と戦ったの屍を思い浮かべた。対正太郎用に生み出されたもう一人の正太郎のことを考えると、無性に何か切ないものが込み上げて来る。

「それがあなたの答えなのね?」

「そうだ。確かに俺ァ、若い時分には才能だとか運命だとか、そういったモノを後ろ盾にして根拠のない自信を勝手に思い込んで生きてきたところがある。まあ、若い時ァ、何も積み上げてきたものがねえから、そうやって思い込んでねえとやって来られなかったことは認めざるを得ねえ。だがよ、実際にこの世界の生きるか死ぬかって場面に何度も遭遇してみると、そんなこたァ、たった一ミリ程度の要素でしかねえことが分かるんだよ。確かにお前ほどの突飛出た天才少女なら別ってもんだが、俺たち凡百な連中は、必死こいて何かをやり続けなくちゃ身体も頭脳もすぐ衰えちまう。それが俺たちネイチャーなまみで生きる人間の道理さ。いくら結果的に生き残って来たとしても、神なんかに近付いたなんてこれっぽっちも思えねえ」


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