偽りのシステム㊶


 ※※※


 その頃、正太郎は自分の身体の本体のある場所を特定しつつあった。

「なあエナ。俺の身体は、今どうなっている?」

 だだ広い荒野のような異空間を、二人は急ぎ足で先を急ぐ。果てしない壁の向こう側に目標を見据えて。

「そうね。もう、二年ぐらい安眠カプセルの液体付けになっている状態だから少し心配ね。たとえ場所を特定できたとしても、すぐには身体を動かせるって話じゃないかもしれない……」

 エナは、繋がれた手をぎゅっと握り返して答える。

「そうか、そうだよな。これでも俺ァ、毎日の鍛錬を怠った日はねえ。ああ、いや、それは嘘か。何度も怪我があったり、死に掛けたり……。この間、ゲオルグ博士の手術を受けた時にァ、昏睡状態で何もしてなかったっけな」

「でも……それでもあなたは何度も死の底から這い上がって来た。それはとても凄い事だわ」

 彼女の握る手がさらに強くなる。

「一日一歩、三日で三歩。三歩あるいて二歩下がる……ってな、そんな昔流行ったすげえ歌があるんだ。けどよ、さすがに、全てはそれが根本ってわけさ。人はよ、それをとやかく凄いことだと褒め称えてくれたりするがよ、やってる本人からすりゃあ、そんなことよりも、それを止めちまえば、今の自分が自分でなくなっちまうみたいで怖いだけなのさ。今よりもっと弱く小さくなっちまうみてえでな。それを一日止めただけでも、今より先に進まなくなっちまうのを実感しちまうもんだからな」

「あなたのような並外れた才能の持ち主ひとでも、そんなこと思うの?」

「それは違うぜ、エナ。俺ァ、なにも並外れた才能なんか持ち合わせちゃいねえ。人は、やれ特別な才能があるとか何とか言ったりちやほやしたりするがよ、そんなのは半分以上はまやかしだ。俺ァ、何も特別の才能なんか持ち合わせちゃいねえんだよ。ただよ、俺ァゲネックのおやっさんに、そうやっておだてられてやって来ただけなんだよ。そうだ、そうなんだ、おやっさんはな。俺の為にこの弱肉強食の世界で生きる術ってやつを教えてくれたんだ。そして俺ァ、それに応えて目一杯やって来た、それだけなんだよ。人はとやかく俺のことを何かと特別な才能の持ち主だとか持ち上げてくれちゃいるが、そんなのはただの結果論さ。ただ、闇雲にやってきたことが上手く時流に乗り上げて来ただけで、俺のやってるこたァよ、昔の平穏な日常なら、ただのテロリストも同然なのさ」

「そ、そんなこと……」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る