偽りのシステム㊵


 ※※※


 予想通り、浮遊戦艦側の人攫ひとさらいなる〝人間狩り〟はくまなく行われた。

 浮遊戦艦の人間狩りは、これまでにも行われてきたことだ。だが、その規模や頻度はそれほど多いものではなく、そのやり口も宗教や悪徳商法の勧誘のように分かり易く回りくどいものであり、それほど効率の良いものではなかった。

 だが、これからは違う。

 それはまるで、夜な夜な子供に語り聞かせるおとぎ話のように、突然暗い道を歩いていたところを、唐突に、刹那的に、何の予告も無く無作為に何処からともなく連れ去って行ってしまうものだった。

 無論、シュンマッハ側は、この行為を〝浮遊戦艦側〟の仕業だと公言していない。そればかりか、

「これは、元女王マリダ側の反逆行為である!!」

 と、偽りの事実を公言し、その反社会的な行為を全て元女王に押し付けたのであった。

 国民はそれを疑うことはしなかった。

 なぜなら、これまでと浮遊戦艦の人攫いの方法は違うし、表面上でも現ペルゼデール・ネイションは浮遊戦艦と条約を締結しているからだ。よもや、社会通念上味方となった浮遊戦艦側が〝人間狩り〟を行っているとは思わない。

 まして、少しでもそれを疑った発言をすれば、シュンマッハ政権下の政府に存在ごと消されかねないからだ。

「フフフ、機能しているぞ。そう、吾輩の求める永遠の楽園を目標としてな。そうだ、この愚鈍で臆病なこの国の連中は、この吾輩の永遠の手ごまに過ぎん。こいつらが愚鈍なお陰で、こうして吾輩はこの地位に居られる。しかし……」

 しかし、それを脅かすのは、女王マリダ。謎の失踪を遂げた鳴子沢大膳。かつてこの国の重要な部署に位置していた軍上層部の面々。そしてさらに……。

「あの〝ヴェルデムンドの背骨折り〟は何処へ行ったのだ……。吾輩は、どうもあ奴の存在が気になって行かぬ。吾輩はあ奴を、昔から……あの戦乱のころから好かぬ。あ奴は何処へ行った!? あ奴は今どうしている!? あ奴は、吾輩にとって目の上のでしかない。あ奴が居たお陰で、吾輩は先の戦乱でかなりの遅れを取った。あ奴さえ居なければ、もう今頃は吾輩はこの世界の全てを収められていたところだ。ううう、頭が痛い……。あ奴のにやけた面を思い起こしただけでも気分が悪くなる……。ええい! 愚か者ども!! まだあ奴の居場所を特定出来ぬのか!? いつまで待たせるのだ!? あ奴の居場所をいち早く特定出来た者には、永遠の命の褒章を与えようぞ!!」


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