偽りのシステム⑧


「役割論かあ、そんなのもあったわよねえ……」

 エナは言いつつ、遠い目をして天を仰いだ。

「何だよ、お前。まるで他人事ひとごとみてえに、いきなり感傷なんかにに浸りやがって……」

 正太郎は、呆れ顔で問い掛ける。

「そりゃあそうよ。まだあたしは見た目も中身も子供の部類だけれど、これでも一応女なのよ。女として生まれて来たからには、女の幸せというのをいっぺんでも良いから味わってみたかった……なんて、ね、時々思ったりするのよ……」

「ふうん、なるほどね。女としての役割か……。まあ、お前はもう人間としての役割を十分と言って良いほど味わって来たはずだ。それで良しとしようぜ」

 正太郎は、少しだけ困った表情で頭を掻きながら答えると、

「もうっ、そういう意味で言ったんじゃないわよ!! この唐変木のこんこんちき!!」

 エナは、ほっぺたをぷっくりと膨らませて、バンバンと彼の大きな背中を叩く。

「な、何だよ、エナ! いきなりキレるんじゃねえ」

「キレさせたのはあなたでしょう!? そういうところなのよね、そういうところ!! この天然の女ったらし!!」

 エナは、さらに正太郎の背中を思いっきり引っ叩いた。

 正太郎は目から火花が飛び出したかと思うほどのけ反り、

「痛ってえなあ! なんだよ、これがキレる若者って奴か……」

 などと憎まれ口のような独り言を口走ったとき――

「な、何!? 何これ……!?」

 エナが、突然驚嘆の声を上げた。

「う、うわ! 何だこれ!?」

 次いで正太郎が声を荒らげたのは言うまでもない。その時、真っ白に広がる仮想空間に、居てもたっても居られぬほどの地響きが巻き起こったからだ。

 

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