浮遊戦艦の中で366
「そうです、浮遊戦艦とは、かのシステムが自らの目的を果たさんがために具現化した一つの存在なのです」
大膳が言うと、リゲルデ、ジェリーの双方は口をあんぐりと開けたままその場に立ち尽くした。システムと言うからには、何らかの概念や摂理といったものだと考えていたからだ。
「そういうことなのですよ、ご両人。もはや、システムはシステムであってただのシステムではない。そのシステムがこの世界に影響を及ぼしたことによって、様々なエッセンスを振りまいて来た。振りまかれたエッセンスは、様々な存在に影響を及ぼし、やがてそれらの存在が具体的な存在となって形に表した。浮遊戦艦とは、その影響の一部なのです」
分からない話ではなかった。
人間の寿命は、現在でも長くても百年程度。この世界のあらましからすれば、そんなものは単に一瞬の光明に過ぎない。
ゆえに、何千、何万、何億年と地道に影響を及ぼしているシステムの概念が、今になってこのような巨大戦艦になって現れるのも何ら不思議なことではない。
「なるほど、それは厄介なことですね。これから我々が戦おうとしている敵は、私などよりもはるか昔からこの世の中に存在している……」
ジェリー・アトキンスが、どこか焦燥混じりの震え声で言葉を放つと、
「これ以上の敵は、人類史上類を見ないというわけだな、ダイゼン・ナルコザワ。これは腕が鳴る……」
リゲルデも、どこか誇示を含んだ笑みで天を仰ぐ。
「そう、我々人類は、そのシステムによって滅ぼされようとしている。いつ、誰が、どこで、何のために造り出したかも知れないシステムによって、我々は今のこの瞬間に翻弄されてしまっている」
「だから、私たちが、その先駆者にならないといけないと思うのよ、ねえ、ジェリー。あなたもそう思うでしょ?」
傍らにいたシモーヌ博士が、ジェリーの腕を取って手を絡めて歩み寄って来た。ジェリーは静かにうなずいた。
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