浮遊戦艦の中で352
「優しさが不要?」
「ああ、その通りだ。さすがはシェラストン博士というべきか。彼女は紛れもない女性だ。自分が生み出した生命が、ただ他人を殺戮するだけの道具にはしたくなかったのだろう。なあ、シェラストン博士?」
大膳が問うと、
「ええ、その通りです、ダイゼン・ナルコザワ。いくら軍の研究とは言え、私が生み出そうとしていたオリジナルな彼を、単に偏った人殺しのマシーンにだけはしたくなかったのです。彼のコピーとして量産された別の個体も同様に……」
シモーヌ・シェラストンは答えた。この言い様に、とても母性的な品性が宿っていた。リゲルデを看病していた時とはまるで雰囲気が違う。
「私にコピーも存在するのですか!?」
ジェリーは食って掛かった。自らが人造人間というだけでも衝撃的なのに、そこに複製があるという事実。彼の衝撃は計り知れない。
「当然のことだ。君が研究対象物であるということは、当時の莫大な国家予算が注がれている。結果、優しさを有することによって、非効率な兵器として認識されてしまった君は、オリジナルの君以外にも複数のコピーが量産されることになったのだ。軍の上層部は、自らが望む結果を欲しがっていてね。しかし、複製となる計画にシェラストン博士は関わらなかった。なぜなら、これ以上君に……複製の君と同じ個体にも殺戮マシーンとして生きて欲しくないと思っていたからだ。そうでなければ、君のその子供のころの記憶を改ざんして、もっと悲惨なものにしなくてはならないからだ」
「そうよ、ジェリー。私はあなたを作り出す時点で、架空の記憶を盛り込まなければならなかった。だけど、人というものは積み上げて来たものによって、その後の人生の尺度が変わる。悲惨な体験をして来た者は、より悲観的で憎しみのこもった人生を。適度な幸せに満ち、適度なストレスを加えて生きて来たなら、より前向きで他人の心を図り知ることが出来る人生を送ることが出来る。そうよ、私はどんなに兵器として生み出されたあなたであっても、偏った前者である人生を送らせることは出来なかった。だけど、それが軍の上層部の逆鱗に触れて……」
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