浮遊戦艦の中で351



「そう、君は当時のバイオテクノロジーの最新技術を集結して作り出された有機的人造人間なのだ。言わば、かなり前に熱心に研究がなされた米軍の極秘プロジェクトの産物なのだよ」

「ま、まさか……」

「何も驚くことはあるまい。すぐ前に、翼の生えた巨人が居るぐらいなのだからね。そのぐらいの研究は当然あって然りだ。それに……」

「それに、何です?」

「それにだね。君のその他の追随を許さない卓越した能力を鑑みれば、それがあたかも人工的な人類の理想像であることが分かるはずだ。君のその能力は、よほど幾何学的で機械的であるとは思わんかね」

「機械的ですって? し、しかし……」

 ジェリーは黙り込んでしまった。機械的と言う言葉に、どうも語弊があるようにしか感じられなかったからだ。

「ならば、この記憶は何なのです!? ここまで生きて得られた子供のころからの記憶は何なのです!? わたしは、そこにいる妻との記憶も確かです。ですが、子供のころからの記憶も少なからず存在します。おぼろげな記憶もところどころありますが、それは通常であると考えます」

「ああ、そこは何も目くじらを立てて言及する必要はない。なにせ、全てはシェラストン博士の理想によるものだ。その理想は、君の記憶にも関与している。つまり、君はシェラストン博士の理想の男性像なのだ。だから、君のその子供のころの記憶も、全てシェラストン博士がまともな人格形成を司るようにと、一から架空に作り上げたものだ。ただ、君と博士との間にあるその記憶は本物だと思うがね」

「そ、そんな……」

「良いかね、ジェリー・アトキンス殿。君は正真正銘、まぎれもない人工培養の有機生命体であり人造人間だ。しかし、君は兵器として生み出されたにもかかわらず、米軍では使い物にならなかったのだ。彼女の研究から編み出された能力が、より優れたものであったとしてもね」

「な、なぜです? なぜなのです?」

「余りにも性格が優しすぎたのだよ。兵器に優しさは不要だったのだ」


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