浮遊戦艦の中で350


 大膳は、そうジェリーに問い掛けられると、柔らかく口角を上げ、

「もうよい、出てきなさい。シモーヌ・シェラストン。恥ずかしがることはない。良いから姿を見せなさい」

 大膳が、まるで娘を扱うような声を投げ掛けると、入り口の向こうから、褐色の美しい女性が顔を出した。

「シ、シモーヌ!?」

「シモーヌ……?」

 その時、声を上げたのはジェリー・アトキンスだけではない。リゲルデも全く同時に情けない声を上げた。

「ど、どういうことだ、ダイゼン・ナルコザワ? なぜ、アマンダ……いや、シモーヌがここに居るのだ?」

 リゲルデは、一ミリも動揺を隠せなかった。そこには、弱り切った自分の看病をしてくれたアマンダ・シャルロッテ似の人物の姿があったからだ。

「紹介しよう。彼女は、ジェリー・アトキンス殿の伴侶にして、生みの親でもある生体物理学者のシモーヌ・シェラストン博士だ」

「シモーヌ・シェラストン博士だと!?」

 リゲルデは声を荒らげた。彼女が生体物理学者などという肩書を持つというだけでも驚きだが、それに加えてジェリー・アトキンスの妻ということが引っかかった。

「久しぶりね、ジェリー。とても会いたかったわ。いえ、何度もあなたには会っているのだけれど、それはまた違う意味ね」

 シモーヌは、はにかんでいた。それはどこか夢見る乙女のようであり、どこか得体の知れぬ魔女のようでもあった。

「ジェリー・アトキンス殿。実は、君をこの世に生み出したのは、ここにおられるシェラストン博士なのだ。君は普通の人間ではない。君は、彼女が開発した人工培養細胞によって作り出された、言わば人造人間なのだ」

「な、なんですって……!?」


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