浮遊戦艦の中で339


 彼らは、〝戦士たち〟の命懸けの争奪戦を背に、ようやく元の場所に戻った。

「もうすぐ入り口付近です。ミスターワイズマン、お身体の方は大丈夫ですか?」

「ああ、何とかな。この身体はとても頑強に出来ているようだ。もしかすると、これなら核攻撃にも耐え得るかもしれんぞ」

「核攻撃……」

「ハハハ、冗談だ。そんなことが出来るのであれば、もうすでに人類は宇宙さえ支配出来るようになる。機械なんぞに頼らずとも、な」

 リゲルデが、乾いた笑いで返す。その笑い声は、数多に割られたカプセルが立ち並ぶ構内に響き渡った。

 その時である――

「さすがは先の戦乱で生き抜いて来た戦術家、元反乱軍第七機動部隊で腕を鳴らしたリゲルデ・ワイズマン少佐殿だ。目の付け所が違いますな」

 彼らの背後から、不敵にも腹の底から染み入るような野太い声が響いて来た。

「な、何っ!? だ、誰だ!?」

 リゲルデの背筋に冷たい感触が突き刺さった。今の彼は、変化へんげしている。その感覚は、常人であったころの数千倍にも及ぶ。

「なるほど、君をその姿に変えたのは、やはりかね? うむ、非常に興味深い姿だ。だが、その程度では始祖ペルゼデールには気に入られまい」

 言ったその声の主は、数人の付き人と共に彼らの前に立ちはだかった。真ん中に位置する男は、かなりの大柄で樋熊のような体つきをしている。深紅のマントに身をくるみ、顔には鬼の形相の黒いお面を掛けている。

 しかし、それ以上に異様なのは、その男の周りにいる付き人たちだった。彼らは、人の形こそしているが、目も無く鼻も無く、それどころか口に相当するものも一切ない。だが、

「長官どの。この者たちに、この場所を知られたのは非常にまずい。このまま外に出られては、今後の計画の妨げになりますぞ」

 何故かは知らぬが、虹色に光るその人物たちは、どこぞから声を発し、鬼の面の大男に話し掛けている。




 

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