浮遊戦艦の中で340


「何だ、貴様たちは!? 名を名乗れ!!」

 リゲルデは、恐怖のあまり激昂し、不慣れな格好で身構えた。

「私は、名を名乗るほどの者でもありませんよ。いや、あなたはこの私を知っている。なぜなら、あなたは先の戦乱で対極の立場におり、そして少し前までは私の配下でその腕を振るっておられたからだ」

 鬼の面の大男は言って、不敵にも腹の底から笑った。リゲルデは、周りのこの状況をして、余裕をぶちかましている大男に身震いさえした。

「なんだと? 貴様は一体……!?」

 そこで大男は、被っていた鬼の面を剥いだ。すると、その中から現れたのは、

「ま、まさか!? あんたは、ダイゼン・ナルコザワ……!!」

 そう、その深紅のマントに身をくるんだ大男の正体とは、少し前までペルゼデール・ネイションで陣頭指揮を執っていた鳴子沢大膳の姿であった。

 彼は、自国の執務大臣の立場にありながら、あらゆる国家の一大事の前に突然の疾走を果たした。新興の大国家であったペルゼデール・ネイションにおいて、彼のような中心人物を失ったことは大きな痛手でしかなかった。そのお陰であらゆる暴動が頻発し、結果、シュンマッハのような悪童が跋扈ばっこする結果を招いてしまった。

「本当に人の人生などというものは分かりませんな。実に興味深い事実です。なにしろ、ことの有り様によっては、考えも行動も百八十度全く正反対に様変わりしてしまう」

「き、貴様、いくら元の上層部の立場とて愚弄は許さんぞ!! この俺のやってきたことを一言で馬鹿にするのか!? ここまでやっとの思いで生き抜いて来た、この俺を!!」 

「いえいえ、馬鹿になぞしておりませんぞ、リゲルデ・ワイズマン少佐。それはこの私も同じこと。何も馬鹿になぞしておりませんぞ、少佐。いえ、元少佐と申し上げれば宜しいか」

「何っ!? 貴様、なぜそれを……」

「フフッ、何も申されますな、ワイズマン殿……いや、ワイズマン上等兵とても申し上げれば宜しいか」

「クッ……。そこまで知っているのか」



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