浮遊戦艦の中で330


 化け物たちは、ジェリーの動きに気付かなかった。ジェリーが、緑色の水棲生物のもう片方の腕にダミーの生命維持装置を預けたところを。

 赤茶色の化け物の視線は、緑色の水棲生物が手を伸ばした場所へ――。そして、緑色の水棲生物の視線は、赤茶色の化け物が投げつけて来た鉄片の先へ――。

 すべてはジェリー・アトキンスの思惑の中にあった。彼らの癖と行動パターンはほとんど読み取っている。ジェリーの計算では、彼が化け物たちに大接近したことに気付かれていない。視界にすら入っていない状態ということだ。

「いくら肉体に特化して居ようとも、それ相応の感覚が伴わなければ……」

 ジェリーは、彼らに気付かれぬまま、一度その場を後にした。

「これで、わたしの判断が正しければ……」

 間違いなく化け物たちは、呆気にとられ狼狽うろたえることだろう。

 案の定、化け物たちの動きが一瞬止まった。あれだけ生命維持装置の奪い合いに熱を上げていた彼らの目に戸惑いの色が見えたのだ。

 緑色の水棲生物の片腕には、二つの生命維持装置が掲げられている。彼らの目的は、正しくこれの奪い合いである。

 にもかかわらず、彼らは一瞬にしてそこから目を離したすきに、もう一つの生命維持装置が現れてしまったのだ。これに驚かぬはずがない。

「掛かった……!」

 ジェリーの予測は、確信に変わった。

 彼ら化け物は、間違いなく素直な性質を持った生き物であることに。

 我々人類のように、他人を騙したり、それを疑ったりしない。端からそういった概念が存在しないなのだと。

「肉体に特化した分、奴らには相手を騙すと言った概念がない。今までこれと言って必要とせず、機知を進化させて来なかったのだな。こいつらは……」


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