浮遊戦艦の中で329


 ジェリーは、まず手始めに壊されたいくつものカプセルのある場所に戻った。

 そして、その中に身体を突っ込み、緑色の水棲生物が持っていたのと同じタイプの生命維持装置を数個見繕って、それを両腕に抱え込んだ。

(おそらく、これはみんな壊れて使えなくなっている。しかも、同型の種族で同じ条件下でなければ役に立たない物だ。しかしほとんど見た目は同じ。今の余裕のなくなった連中になら、間違いなくダミーとして使える……)

 彼は一目散に元の場所に戻った。そして、抱えて来た生命維持装置をまんべんなく化け物たちの周囲に置き、さっと身構えた。

「ここからは、わたしの力量と運が試される。奴らの無意識による動きが間違いでなければ……」

 ジェリーの頭の中では、化け物たちの今までの動きがスロービデオのように繰り返されていた。

 その模様は、常人では計り知ることの出来ない不規則極まりないものである。だが、ジェリーにはそれが規則正しいものに見えた。こうなればこうなる。こういった攻撃を受ければ、こういった次の動作をする。

 その動きの一連のパターンが、建物の狭い空間に所狭しと展開される様が光の通り道のように上下左右、奥行きを伴って見えているのだ。

「ここはわたしが訓練を積んだ場所……広く澄んだ大空よりもはるかに小さい。この程度なら、生身の肉体一つでも……」

 言って、彼は化け物たちの懐に飛び込んだ。手には一つだけ生命維持装置が掲げられている。

 と同時に、赤茶色した筋肉の化け物が、大きな釜のような鉄片を緑色の水棲生物に振り下ろす。

 緑色の水棲生物は、壁に粘性の伸びる腕を投げ出した。その勢いで攻撃を避ける算段である。

「占めた!!」

 その刹那、ジェリーは緑色の水棲生物に大接近し、持っていたダミーの生命維持装置を化け物の懐に預けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る