浮遊戦艦の中で328


 言ってジェリーは固唾を飲んだ。かと言って、ジェリーとて条件は同じ。彼らと同じくして不可思議なカプセルに囚われていた身である。いつなんどきに、人間に必要不可欠な酸素が切れるとも知れないのだ。

「こうしてはいられん。ならば、わたしが取るべき行動は決まった。あの生命維持装置を奪い取るまでのこと。きっと、この空間に漂っている心地よさは、あの生命維持装置が発端になっているのかもしれない。あれは、どんな生命体にも通用する特殊な装置なのだ。何者かにカプセルが壊されたことによって、それを持つ者と持たざる者との争いが勃発したのだと見ていい」

 言ってジェリーは、すぐさま行動に出た。二体の化け物が奪い合って手にしたものを横取りする算段なのだ。

「なんとかアレを奪って、自らがおとりになる。そして、ミスターワイズマンの意識を取り戻す」

 ジェリーはタイミングを見計らった。現在、生命維持装置は、緑色の水棲生物らしき化け物の手中にある。

 ジェリーは、得意の空間把握能力を駆使して、二体の化け物の行動パターンを読んだ。

「フフッ、生命維持装置を手にしている緑色の方は、アレを奪われまいと必死だ。赤茶色の方はそれを取り返そうと必死だ。かなり一刻を争うのだろう。ともに冷静でないと見える。それだけに、傍から見ていると手の内が見え見えだ」

 ジェリーにはよくわかる。どんなに鍛え上げられたパイロットだろうが戦士だろうが、そこに余裕が生まれなければ、それ以上に行動が狭まってしまうことを。

 刻一刻と命が尽きかかっている状態なのだ。このような場面で冷静でいられるのはほんの一部のキワモノに過ぎない。

「あいつらは必至だ。だからこそ普段には見られない隙が生まれる。そう言った脆弱なものを持っているということは、こいつらはきっとどこかの文明人なのかもしれん……」


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