浮遊戦艦の中で327


 生き残る余裕――。

 ジェリー・アトキンスが感じる、そして彼が辿り着いた結論とは、呼吸――。すなわち、我々人間で例えるならば、体内に取り入れる空気。そしてその成分である酸素や窒素といったものだ。

 人間にとって酸素とは生きるための源と言っても過言ではない。

 だが、その成分が極度に薄くても濃すぎても害を及ぼしてしまう。

 さらに言えば、酸素というものは本来は我々人間にとっては酸化を招く有害な物質であった。しかし、超古代の祖先は進化の過程でミトコンドリアなるものと融合し、酸素を取り入れてそれを自らのエネルギーに変換する役割を授かった。

 しかし、これは我々人類に限ったものである。

 つまり、彼らジェリー・アトキンスから見たには、今現在の空間に、彼らに必要不可欠な成分の空気が足りていないのかもしれない。少なくとも、そういうことだとジェリー・アトキンスは悟ったのだ。

「奴らは、この空間の中にそれぞれに必要な空気が足りないんだ。きっと、あの大きなシャボン玉の泡のようなカプセルには、それが備わっていた。つまりこれは、その装置の奪い合いなんだ」

 思って気づくと、確かに緑色をした化け物の手には、それそのような四角い装置が握られている。しかし、赤茶色をした化け物にはそれと同じような物が見当たらない。

 ジェリーは、それで納得がいった。次々に割られていたカプセルの残骸は、先に何らかの力によって目覚めた存在によるものだと。

 自分に見合う生命維持装置を横取りするために、次々と破壊を転じ、そして今に至る。

「もしやもすれば、この不可思議な建物の外にあった遺骸は、この世界の大気に適合出来ずに死んだカプセルから這い出した存在なのかもしれない。しかし、そう仮定すれば、一体こいつらはどういった存在なんだ……」


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