浮遊戦艦の中で326

  


 ジェリーは考えた挙句、一つの疑問に辿り着いた。

「そもそも、なぜ彼らは戦い合っているのだ? 彼らが何者であるかすら今は分からないが、彼らがただの下等な化け物でないことは確かだ。そのように下等でない生物同士が戦い合う理由を考えるならば、ただの生存本能や闘争本能をむき出しにしただけの争いでないことが推測される……」

 ジェリー・アトキンスという男。この男は、かなりまともな思考を持つ人間である。

 他者からは、やれ生真面目であるとか、やれ堅物であるとか容易に評価されがちだが、それだけにより突飛ではなく、より自己顕示に偏らないものの見方が出来た。つまり、至ってフラットなものの見方が出来るのである。

「そうか、まさかとは思うが……。彼らは何らかの生存を賭けて戦い合っているのかもしれない。我々人類同士でもそうだが、他者同士が戦い合う根源は、それぞれが生き残りを賭けるという真の目的がある。観戦スポーツのようなエンターテインメントならいざ知らず、それ以外で生き残りを賭けるとすれば、それは……」

 ジェリーは、そこで大きく息を吸った。そして確信に至った。この空間は、殺気に満ちているにもかかわらず、なぜかすこぶる心地がよい。しかし、目の前で戦い合う化け物たちに、なぜか余裕というものが感じられない。

「これはもしかすると……」

 ジェリーは、ここで一筋の光明を見た。彼は、その光明を絶対的な確信に変えるべく、傍らに落ちているをつかみ取り、それを化け物たちの戦い合うど真ん中へと投げつけた。

「Good luck……!!」

 掛け声とともに、泡の破片はひゅるひゅると唸りを上げて、組み合う化け物たちの互いの腕と腕の間に当たって砕け散った。

 しかし驚いたことに、化け物たちは何処からか唐突に飛んできた破片に気づいたにもかかわらず、その戦い合う手を止めようとはせず、そればかりか、まるで余裕のない表情でちらりとジェリーの方を振り向くと、また互いに攻撃し合うのであった。

「や、やはりそうだ。そうなのだ。奴らには余裕がないのだ。この空間で生き残る余裕が……」




 

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