浮遊戦艦の中で325


「今のわたしには、あれを利用するしか手立てはない。あれを利用するしか……。あの二体の化け物の気を引いて、赤い巨人が居る場所へ誘導するしか。何とかあの二体の化け物に、赤い巨人の存在を知らしめて戦い合わせれば、きっとミスターワイズマンの意識を戻すことが出来るかもしれない」

 しかし、それにはかなりの覚悟が要る。あの二体の化け物の気を引き寄せるには、ジェリー・アトキンス自らがおとりとなって逃げ回れなければならないのだ。

 間違いなく二体の化け物も超人である。そんな超人相手に無事に逃げおおせられる確率は限りなくゼロに近い。

「こういった時に、ミスターワイズマンならどうするだろう……。彼は後方の戦闘指揮を司る役目の人だと言っていた。逆にわたしのように、前線を生きる者とは違う。まるで立場が逆だ。この現状が真逆であったなら……」

 そう考えようとも、今まさにやれねばならないのだ。状況は逼迫している。

 ジェリー・アトキンスは、こめかみから流れる冷たい汗を感じながらも、必死に最善の方法を模索した。

 そして――

「やはり、これしかない……。わたしがあの中に突っ込むしか」

 言って彼は、自らの言葉に身震いを起こした。それは決して恐怖から起きた身震いではない。自分より強い者に立ち向かおうとしたときに起きる武者震いによるものだ。

(まともにわたしが、あの混沌の中に飛び込んでしまうのでは芸がない。あの化け物たちは、見た目以上に歴戦の勇士とわたしは見た。そんな彼らの気を引くには、向こう側のその上を行く芸当を見せつけることが有効だ……)

 

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