浮遊戦艦の中で324


 赤い巨人はその見た目とは違い、まさに知能的な戦う戦士だった。彼は、リゲルデに打撃攻撃をするタイプだと匂わせておきながら、実は相手の身体の一部分を掴みかけることが目的だったのだ。

「ミスターワイズマンは、赤い化け物の術中にまんまと引っ掛かってしまった……。人は見掛けによらないと言うが、我々人間から見て、あの姿は下等な化け物だと思い込み、それが無意識な油断を生んでしまったのだ。しかしどうする……? あんな激しい回転にわたしが飛び込んで行ったとしても、ただ犬死にするだけだ。ここは何とかミスターワイズマンの意識を取り戻すことを試みねば……」

 赤い巨人の大回転を生身の人間が食らえば、捕らえられた四肢の部分から間違いなく遠心力によって引きちぎられてしまう。今のリゲルデの頑強な肉体があってこそ耐えられるレベルなのだ。

「早くしなければ、いくらミスターワイズマンのあの身体でもいつまでもつものか。ミスターワイズマンがやられてしまえば、間違いなくこのわたしも共倒れになってしまう。つまり、ここはわたしが意を決して踏んばらねば……」

 言ってジェリーはごくりと唾を飲み込んだ。そして彼は歯を食いしばると、赤い巨人がリゲルデを振り回しているスペースにくるりと背を向けていきなり駆け出した。

 次第にリゲルデのぐったりした身体は、ボロ布が引き延ばされるように、遠心力によって力を失って行く。

 ジェリーは、そんな彼の悲痛な姿にも目もくれず、一目散にその場から離れて行った。

 だが、この行為は決してリゲルデに対する裏切りではなかった。実はその真逆で、ジェリーの一世一代の命懸けの行為であった。

 ジェリー・アトキンスが駆け抜けて辿り着いた場所は、この未知なる空間の入り口付近である。そう、あの緑色の水棲生物のような化け物と、赤茶色の粘土のような皮質を持った化け物がしのぎを削って戦い合っている場所である。



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