浮遊戦艦の中で323


 リゲルデは、赤い巨人を見てそう思ったのだ。すばしこく駆け回る赤い巨人。その動きはまさに、蠅のように鬱陶しく蝶のように無軌道である。

 そのふわふわと緩やかにつかず離れすの距離を保とうとする動きから察して、彼は近接戦闘タイプの相手だと判断したわけである。

「ジェリー・アトキンスよ! こんな相手に、貴様の神経をわずらわすこともあるまい。ここはこの俺が、一気に蹴りを付ける!」

「ミ、ミスターワイズマン、待って……!」

 リゲルデは、ジェリーの制止を気にも留めずに駆け込んだ。

 今のリゲルデは、大きな六つの翼を持った剛健な魔人である。たとえジェリー・アトキンスのような生まれながらの戦士でなくとも、その身体能力をもってすれば、あのような相手すら敵ではない。彼はそう判断したのだ。

 ところがである。

 リゲルデが繰り出した先制のこぶしの一撃が、赤い巨人の胸元をえぐり出そうとしたとき、

「な、何っ……!?」

 赤い巨人の身体は半分に裂け、その間をこぶしがすり抜けてしまう。

「ば、馬鹿な……」

 リゲルデが、慌ててこぶしを引き戻そうとしたとき、意外なことが起きた。

「ミスターワイズマン! 早くそこから離れて!!」

 ジェリーの切羽詰まった絶叫が聞こえて来た。しかし、彼の掛け声もむなしくリゲルデの腕は、赤い巨人の一気に収縮した身体に掴みこまれ、そのまま硬い床に打ち付けられた。

「ぐおおっ……!!」

 床にクレーター状の大穴が開く。

「ミ、ミスターワイズマン!!」

 ジェリーの悲痛な叫びが辺り一帯に木霊した。なんと、赤い巨人の中に取り込まれたリゲルデの片腕は、そんな衝撃があっても離れない。

 さらに赤い巨人は攻撃の手をやめず、ぐったりとしたリゲルデの身体をひょいと持ち上げて、今度は三本の目の足を軸にそのままダイナミックに回転を始めた。

「ミスターワイズマン! ミスターワイズマン! だ、駄目だ。彼は完全に意識を失っている!!」


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