浮遊戦艦の中で316


 しかし、彼らの思惑よりも先に、その時は訪れた。

「しっ、静かに……。ほら、何か聞こえませんか?」

 いきなり足を止めて、ジェリーは宙に耳を傾けた。

「俺には何も聞こえんぞ。貴様の空耳ではないのか?」

「いえ、確かに聞こえています。何か、物と物とがぶつかり合う音が……」

「ぶつかり合う音だと……?」

 言われてリゲルデは、目を瞑り再度耳を澄ませた。

 しかし、彼にはしんと静まり返った静寂の淀みを感じさせるだけである。

「いえ、音だけではありません。この空気の流れ、他の何かとは違う物の熱気……。これは誰か居ます。この奥の方に……」

 リゲルデは、憮然とした表情でジェリー・アトキンスを見つめた。この男、さすがに只者ではなかった。一流のエースパイロットであり、伝説の男とまで呼ばれたその片鱗は、正しく同じ素材として生まれ出て来た証しなのだろう。

(この鋭い感覚があってこそ、この男がこの男たる所以ゆえんなのだろう。口惜しいが、この俺には到底出来ん芸当だ……)

 思いつつ、リゲルデが松葉づえとの体制を取り直そうとした、その時――、

「来ます、ミスターワイズマン!! 伏せて!!」

 いきなりジェリーが、リゲルデの身体を覆うように身を飛び込ませてきた。

 リゲルデは息つく暇もなく床に倒し込まれ、強く背中を打つ。

「な、何をす……」

 リゲルデは、突然のことに文句を言い放とうとしたが、

「いけません、顔を上げては!!」

 ジェリーは怒号でそれを制す。

 その次の瞬間、リゲルデの目の前に風切りの音をまとった金属の光沢がきらびやかにぎった。

「な、なんだ……!?」

 しかし、それが過ぎるのと寸分の違いもなく、また彼らの目の前を巨大な肉塊の生き物が通り過ぎる。

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