浮遊戦艦の中で317

 

「な……!? 何だ、今のは?」

 薄暗いために、リゲルデの目にはっきりと映らなかったが、それは間違いなく、

「化け物です!!」

 ジェリーは言い切った。

「貴様、あの一瞬であれが見えていたのか!?」

「ええ、当然です。あれは人間の姿ではありませんでした。物凄いスピードで我々のすれすれのところを過ぎ去っていきましたが、間違いなくあれは化け物です! 羽根もない、牙もない、人間の姿でもない……。一つは緑色の身体をした水棲生物のようなもの。そして、後に通り過ぎた奴は赤茶色で粘土のような皮膚をした筋肉のような生き物。すなわち、人間の我々からすれば、間違いなくあれは化け物だということです!!」

 リゲルデは、呆気に取られて声も出なかった。ジェリー・アトキンスは、今過ぎ去ったものを化け物と形容する。がしかし、当のリゲルデから言わせれば、この薄明りの中で、しかも通り過ぎて行く一瞬のうちに対象を認識出来るジェリー・アトキンスの方がよほど化け物のように感じられる。

「ここは危険です、ミスターワイズマン。あのカプセルを割ったのは、きっとあの連中です。あんなものに襲われでもすれば、我々はたちまち命を落としてしまうでしょう。さあ、早くここから脱出しましょう」

 言って、ジェリーはリゲルデの手を取る。彼らは、幾重にも立ち並ぶ球体のカプセルに身を潜ませながら、入って来た出入口へと小走りに向かった。

 そして、彼らがようやく元の場所へと辿り着いた、その時――、

「いかん、例の化け物たちだ! 隠れろ!」

 リゲルデは松葉づえでジェリーを制した。

「ま、まさか。よりによって、こんな所で……」

 ジェリー・アトキンスも苦虫を噛み潰したような表情で前を見つめる。

 なんと、先ほど目撃した二体の生物が、高速移動しながらその場でしのぎを削り合っていたのだ。

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