浮遊戦艦の中で314

 

 視界の利かぬトンネルのようなものを抜けると、そこは泡にまみれた空間だった。

 一言に泡と言っても、人の背丈からそれ以上の大きさもあるシャボン玉のような球体が、無数に空間に浮かんでいるのだ。

「ま、まさか。まさかこれが、貴様の言うコールドスリープ装置だと……?」

「ええ、まあ……。コールドスリープ装置とは例えでしかありませんがね」

「しかし、この数……。一体何百体あるのだ? いや、ざっと見積もっても何万体といったところか……」

 遥か天高く山積みなった球体を見上げて、リゲルデはうまく声を出せなかった。

「わたしにもこの光景は理解できません。だから、わたしたちの居る世界の概念で、コールドスリープ装置と言いましたが……。ですが、ミスターワイズマン。わたしがここの玉のようなものから這い出したときには、自分でも信じられぬほど体が冷たくなっておりました。まるで自分が自分でないみたいに……」

 言ってジェリーは先を急いだ。彼らの目の前にそびえる不可思議な球体は、実際にはまだ遠く先にある。

 遠目には気付かなかったが、それらは宙に浮いていた。それらは一つ一つが独立した浮遊物として存在し、さらには互いに干渉し合うことなく、ある一定の空間を保って不規則に並んでいたのだ。

「み、見てください! これを見てください、ミスターワイズマン」

 それらの球体群に近付いた時、ジェリーはいきなり声を張り上げた。

 リゲルデは、慌ててジェリーが指差した場所に目をやると、

「球が……。球が割られている。それもこんなに……」

 シャボン玉のように光沢のある球体が、何か硬いもので無造作に破られた痕跡があった。

 しかも、それは一つや二つといった半端な数ではない。その一角全体が不規則に割られているのだ。

「何なんですかね、これは。誰の仕業なのでしょう?」

「ジェリー・アトキンス。まさか、貴様がやったのではあるまいな?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る