浮遊戦艦の中で307


 彼らが、話に夢中になりつつも、大分奥に足を進めた時だった。

「ああ、やっと明かりが見えてきましたよ、ミスターワイズマン」

 おぼろげではあるものの、この真っ暗闇の先に点のような光の塊が見えて来る。

「あそこに例のコールドスリープ装置があるのか?」

 リゲルデが語気を高めて問い掛けると、

「ええ、そうです。わたしはあの光の向こうで眠らされていたのです。そして、数え切れぬほどのカプセルがあの奥にあるのです」

 ジェリーに言われて、リゲルデの歩みに速度が増した。

 光を見つけてから、およそ十分程度は進んだだろうか。二人はようやくその光に包まれた空間へと辿り着くことが出来た。

「こ、ここが貴様が眠らされていた場所……?」

 リゲルデは、入り口のガラス壁のようなものを見上げ、その中を覗く。ガラス壁自体は、地下道とその奥の空間を隔てただけの大した大きさの物ではなかった。が、驚いたのはその奥の突然現れた巨大な空間である。リゲルデは唖然として見上げたままになった。

「ええ、本当に驚愕すべきことです。わたしは、この中にあるカプセルに寝かしつけられていました。わたしは、目覚めたばかりで頭がボーっとしていたせいで、中の状況を見るよりも先にこの扉を開けて空洞内を彷徨さまよう羽目になりました」

 リゲルデはうなずくと、その先に行こうとジェリーに合図を送った。

 ジェリーは、懸命にガラス壁の真ん中あたりをまさぐった。すると、驚いたことにガラス壁に水滴を垂らした時のような波紋が広がり、滑らかな弧を描きながら閉ざしていた壁の隔たりを無くしたのである。

「こ、このような仕掛け……。我々の……人類の技術ではあるまい」

「ええ、この十年間を実際に生きて来たあなたがおっしゃるのなら、間違いなくそうなのでしょう。わたしも初めにこれを見た時には驚きました。だから気が動転して、いち早くこの中から逃げ出したかったのです」

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