浮遊戦艦の中で306


「その通りだよ、ジェリー・アトキンス。わたしは元々が医学生上がりの頭でっかちな自然主義論者だった。わけあって赴任先のゲリラ組織の手助けをするようになって、それから紆余曲折あって本格的に五年前の戦乱に参戦するようになった。それで俺は、一つの答えを見出したのだ」

「答え……ですか?」

「ああそうだ。ああいった本当の命のやり取りをするときには、見栄や意地だけでは通用せんと言うことだよ」

「……なるほど」

「俺は散々思い知ったのだよ。周りの連中が無残にも命を落として行くたびにな。俺には俺の領分があるということを。そして、俺にはそれ以上に入り込むことの出来ぬ領分があると言うことを、な……」

 その時、闇にむせぶ空洞内に一瞬の静寂がぎった。一筋のペンライトの明かりだけが行き先を照らす。

「ええ……。ミスターワイズマンのおっしゃることが良くわかります。わたしも、こちらの世界に渡航することを決意するまでには、様々な経験を致しました。いくら頑張っても、一介のパイロットに出来ることなどたかが知れていると痛感した次第です」

 二人は、年齢も立場も適性も異なると言うのに、なぜか話が合った。互いの言わんとしていることの本質がくみ取れるのだ。これが馬が合うというものなのだろうか。

「あの頃は、様々な天変地異と流行り病が重なり、世界は逼迫した状況でした。そんな中の政治的な圧力、民衆の意思、時の流れが作り出した幻想に嫌気が差して……」

「それはこの俺も同じよ。仮にも俺は医学生だったからな。たとえ頭でっかちであっても、少なくとも他のお祭り好きな連中よりかは冷静だったはずだ。俺も同じような経緯で、この世界の渡航を決意した一人だ。それが吉だったか凶だったかは計り知れんがな」

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