浮遊戦艦の中で305



 リゲルデは、ジェリー・アトキンスの手ほどきで、空洞の奥へ奥へと進んだ。

 ジェリーは、未だ身体の自由の利かぬリゲルデを気遣い、手取り足取りまるで自らの親のように付き添いを行った。

「貴様は、明かりひとつないこの中を、あそこまでどうやって進んで来たのだ?」

 リゲルデは、慣れない松葉づえ歩行で半ば息も荒くなりながら問う。

「はい。それは手探りと勘だけです。くしくもわたしは元戦闘機乗りで、その後はその当時に開発途上だった試作型フェイズウォーカーの志願パイロットでした。それだけに、中には視覚だけに頼らぬ訓練も繰り返し行われていたものですから……」

「うむ、なるほどな。まだロールアウト初期のフェイズウォーカーは、かなりパイロットの能力に左右されたと聞く。サポート人工知能の性能もそれほどまで出ない時代の志願パイロットともなれば、当然のようにパイロットのポテンシャルが要求される」

「ええ、まあ……。あれは、今思い出しても凄まじいぐらい過酷な訓練でした。もはやあれは、訓練と言うよりも、人体実験と言う方が適切だったのではないかと思います」

 ジェリーの語尾の低さが、それ相応の真実を物語っている。決して楽しい思い出話を語る時のテンションではない。

「俺はな、ゲリラ組織上がりの後方を任されていた。その理由が分かるか?」

「ええ、何となくですが察しがつきます。いくら、わたしたちが訓練を受けた以降にブラッシュアップされた機体であっても、それを容易に使いこなすと言うのは、かなりの身体能力と判断力を有するはずです。いえ、決してミスターワイズマンが劣っているということを言いたかったのではありません。それだけ黎明期から初期型の機体は扱いが難しく、それでいて肉体的影響が顕著だったのです」


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