浮遊戦艦の中で301
「アッハッハッハ、何を馬鹿な。貴様はそのような戯れ言で、この俺を嵌めようとしているのか? 確かにジェリー・アトキンスという男の噂は、そういう意図を持って移住して来たと聞き及んでいる。だがな、そのような話は戦乱後のゴシップ好きな連中によって誰にでも情報は共有されている。今さら、そんな話で、この俺をペテンにかけようとでもしているのか!?」
「ぺ、ペテンなどではない! わたしは間違いなくジェリー・アトキンスだ! 元アメリカ空軍第125エリア基地所属のフェイズウォーカーパイロット、ジェリー・アトキンス元少尉だ!」
「そんなものは、口さえあれば何とでも言える! 何か証拠があると言うのなら信じなくもないがな!」
そこでジェリー・アトキンスを名乗る男は押し黙った。リゲルデはしめしめとばかりほくそ笑んだ。
自らに優位性が無い場面で、相手の隙につけ込むのは心理的な常套手段である。圧倒的に不利な状況に置かれた立場のリゲルデとしては、こうして相手の意識を平常以下に持って行くことが最善の策だと考えたのだ。
(フフッ。こちらとしては、奴がジェリー・アトキンスであろうとなかろうと、どうでもいい事なのだ。まあ、どうせ、奴があの伝説のエースパイロットであるわけがないのだからな……)
そうは考えていたものの、リゲルデに一抹の不安がよぎった。そう、過去の一連の出来事からである。
シモーヌに介抱されてからのち、少しだけ記憶がおぼろげになっていたが、彼は新しい配属先に向かう途中に容易には信じられぬ相手と遭遇した。それが他の次元世界の自らと同じ存在との邂逅である。
そのような自身たちとの遭遇を、もしやもすればこのジェリー・アトキンスという名を騙る男も同線上の経験としてあるのかもしれない。
だとすれば、この男の語る話も嘘ではない可能性もある。
(これで、奴がどう出るかだ……)
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