浮遊戦艦の中で300
リゲルデは言われて、非常に迷った。
確かに相手を信じられぬものそうだが、このままでは主導権を握られたままになってしまう。
(素性も分からぬ相手に、カードを差し出されたままというのは、この俺の性に合わん。まして、あの男は過去の死んだエースパイロットの名を騙っている怪しい輩だ。どうすればいい、どうすれば……)
仮にも彼は戦略家である。確かに戦略家の端くれという自覚はあるものの、自分以外の盤上で踊らされる気分にはなれないのだ。
「おい、ジェリー・アトキンスと言ったな。貴様は本当にあのジェリー・アトキンスなのか?」
リゲルデが大声で呼びかけると、
「何? あなたはわたしの名前を知っているのか? 何ゆえにわたしの名前を知っているのだ?」
「それは貴様が、五年前の戦乱で活躍した反乱軍のエースパイロットの一人だったからだ。俺も反乱軍と同盟を組んでいたゲリラ組織の一員だったからな」
「反乱軍? ゲリラ組織? 何のことだ。わたしはそのような組織の一員でもなければ、五年前の戦乱などというものを知らぬ。まして、そんな戦乱で活躍した覚えもない」
「な、何だと!? やはり貴様は偽物か!! ジェリー・アトキンスなどという誰もが知る名を騙っておきながら、五年前の戦乱も知らぬというのは愚の骨頂だぞ!」
「分からないことを言う。わたしは正真正銘のジェリー・アトキンスだ。わたしはつい先だって、母国アメリカでの強制的なヒューマンチューニング法が施行されたことに不満を抱いたことで、こちらのヴェルデムンドに移住を果たしたばかりだ」
「何をおかしなことを言っている。俺の記憶によれば、アメリカのヒューマンチューニング法が施行されたのは、五年前どころか十年近く前のことだぞ。人を騙すのなら、もう少しましな嘘を吐くべきだな」
「う、嘘ではない! わたしは軍人として強制的なヒューマンチューニング手術を受けさせられることに嫌気がさしたのだ! そして、愛する妻や娘たちと一緒に渡航を決意したのだ」
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