浮遊戦艦の中で302
しかし、ジェリー・アトキンスを名乗る男は、意外にも素直にこう言った。
「わたしはジェリー・アトキンスだという証拠を提示できない。なぜなら、今のわたしに手持ちの物が何もないからだ。衣服は誰かに着せられたポケットも何も付いていないつなぎの様なものだけ。わたしは生粋のネイチャー主義者だ。身体の一部に機械を組み込んでも居ない。だから、証明できるのはわたしの記憶だけになる」
リゲルデはこの瞬間、もしやもしればこの男が本当にジェリー・アトキンスであるような気がした。
ジェリー・アトキンスと言う男は、反乱軍の間でもクソが付くほどの生真面目で通っていた。この期に及んでジェリー・アトキンスを名乗る男がクソ真面目に物事を正直に答えてしまう辺りは生来の物である気がしてならない。
「よく分かった。そこまで言うのなら信じよう。しかし、貴様のその様子であれば、今の状況をなにも把握出来ていない。今の俺は余り動けぬ代わりに貴様の情報源ともなろう」
リゲルデは、こうしてまんまとジェリー・アトキンスを名乗る男に、自分が対等な立場であると強引に印象付けたのだ。ただでさえ身体の自由が利かないのである。今後のことを鑑み、相手の心の隙に付け入り、自分が対等またはそれ以上の位置になるようにと、こうやって一見無駄なような言葉を交わしたのだ。
「身体はしっかりしていらっしゃるようですね。余り動けないということだったから、もっとひどいことになっているのかと……」
ジェリー・アトキンスは、リゲルデの身体を起こしながらそういった。
「フフッ、今の時代、よほどのネイチャー原理主義でない限り、機械に代替するものだ」
「なるほど……。わたしがカプセルに寝かされている間、外はそのような事に……」
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