浮遊戦艦の中で292
そこでシモーヌはため息を吐く。
「ほらね、やっぱり暗くなっちゃった。こういうの、あたしあんまり好きじゃないの。軍人のおじさんも暗くなっちゃったでしょ?」
「シ、シモーヌ。その軍人のおじさんてのは、やめにしてくれないか。何だかそっちの方が気が滅入りそうだ」
「あら、そうだったの。ごめんね。見た目がおじさんだから、そのまんまおじさんって呼ぶのは失礼よね。じゃあ、なんて呼べばいい?」
「俺の名前はリゲルデ。リゲルデ・ワイズマンだ」
「へえ、かっこいい名前なのね。きっと、良いところ出身の生まれなのね。そういう感じするもの」
言われてリゲルデは押し黙った。どう答えて良いか迷ったからだ。
「あれ? なんか、あたし変なこと聞いちゃった? ごめんね。あたし、こんなんだから、いつも叔母さんに怒られるのよ。相手を見てしっかり話しなさいって……」
シモーヌが、舌をぺろりと出しておどけて見せる。
リゲルデは、そんな彼女を憎めなかった。彼の愛したシャルロッテとは見た目が似ていても、余りにも性格が違う。
とは言え、彼女は命の恩人だった。
(口で言うのは簡単だが、女手一つで人の世話など容易なことではない。この女、只者ではない……)
リゲルデは、そう感じていたが口には出さなかった。たとえ彼女がシュンマッハ政権への反政府組織のメンバーだったとしても、それを口実に通報する気にもなれなかった。
(俺はまだ軍に属している身だが、だからと言ってもう軍への忠誠などこれっぽっちも持っちゃいない。俺は俺の目的を果たす為だけに生きているのだ)
彼にとっての目的とは、無論アマンダ・シャルロッテの敵討ちである。
当然、私情としてシモーヌという女性が、アマンダ・シャルロッテに似ているという理由もある。
「ええと、ワイズマンさん……だっけ? まだ起き上がるのは無理でしょ? だったら、もうちょっと様子を見ないとね。あんまりもてなしは出来ないけど、元気になるまでここに居ていいよ」
「す、すまない、シモーヌ。恩に着る。それより、俺の呼び方はワイズマンではなく、リゲルデで良い。その方がしっくり来る」
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