浮遊戦艦の中で291


「ふうん、なんだか意味深ね。……でも、それ以上は聞かない。だって、聞けば絶対に気分が暗くなっちゃうから」

 シモーヌは、口に手を当ててケラケラと笑った。そんな彼女の乾いた笑いが、リゲルデにはどこか裏腹めいたものに感じる。

 シモーヌ・シェラストン。彼女は自らをそう名乗った。

「君一人か? ここにいるのは」

「そうよ。変わってるでしょ? あたし、一人が好きなの。いいえ、決して人嫌いなんかじゃない。街の人に村八分にされているわけじゃない。ただ単に、一人でいることが性に合っているのよ」

 リゲルデは、シモーヌの言うことをすぐに受け入れることが出来た。確かに彼女は人嫌いな雰囲気でもなければ、他人から嫌われるような要素など微塵も感じさせない。ただ、一人で居ることが好きなようだ。

「だって、楽なんだもん。一人で居る方が。余計な面倒を見なくていいし」

「し、しかし、シモーヌ。君ぐらい若くて綺麗な女性が一人で居るなどと……。勿体ない」

 言われて、シモーヌは目をぱちくりしながら、

「あら意外。あなた、もっとお堅い性格の人かと思った。起きたと思ったら、いきなり口説いたりするものなの? そういう世代の人?」

「い、いや……べ、別段口説いているとかじゃないんだ。ただ、率直にだな……」

「ふふん、まあ、いいわ。そういうことにしといてあげる。でもね、軍人の。あたしだって、ちょっと前までには恋人ぐらいは居たのよ。まあ、みんな死んじゃったけどさ」

「死んだ? みんな?」

「うん……。まあ、こういう話って、雰囲気が暗くなるから本当はしたくないんだけどさ。あたしと付き合うと、みんな死んじゃうのよ。戦争で死んだり、ヴェロンに食べられて死んじゃったり……。ここ最近だって、反逆者の嫌疑を掛けられて打ち首獄門になっちゃったわ。結婚の約束までしてた彼氏が」

「ま、まさか、その彼氏は、シュンマッハに睨まれていたのか?」

「さあ、どうかしらね。あたし、そういうの詳しくないから。本当にそうだったのかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。でもね、もう疲れちゃったのよ。あたし、そういうの。きっとね、あたしには、厄介な死神がついているのよ」



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