浮遊戦艦の中で293
それからというもの、リゲルデはシモーヌの家に滞在することになった。
体はまだ万全ではないばかりか、起き上がることさえ困難だった。そのため、彼女の介助によって身の回りの世話をしてもらう生活が続いた。
そして三日が経った頃には、彼女お手製の木の枝で造った松葉づえを突きながら家の周りをうろつくまでに回復した。
「リゲルデのおじさん。あたしね、ちょっとノイマンブリッジまで行って食料を調達して来るから、あんまり遠くまでうろついちゃだめよ。やっぱり二人分の生活だと食料が減るのが速いんだもん。ううん、大丈夫よ。あたしには専用のフェイズウォーカーがあるから。と言ったって、軍の払い下げのポンコツだけどね。それでも身を守るには十分なのよ。ちょっと行ってくるから、お留守番よろしくね」
彼女はいつもこの調子である。
「やれやれ、リゲルデのおじさんと来たか。率直だな」
リゲルデは、まだ上手く全身に力が入らない。いくら松葉づえを突いたとしても、一歩一歩進むにはかなりの労力と時間を要する。
とは言え、彼には確認したいことがあった。彼女が何者であるかと言うことだ。
彼女の住み処は、石造りの基礎と壁を基調とした一軒家である。屋根がログハウス風に丸太で彩られているが、その上には氷の嵐が起きても良いようにと断崖の天然ドームがそびえ立っている。
(やはり、一人で住むには不自然な大きさだ。小さな組織の拠点だった可能性がある……)
外観を見上げるなり、リゲルデは唸り声をあげた。女性が一人住むには、どう見ても立派である。
この建物を建てるには、そう時間はかからない。なぜなら、フェイズウォーカーが数機さえあれば、この程度の物なら一か月で出来上がってしまうからだ。
フェイズウォーカーの前身は、フェイズワーカーである。フェイズワーカーとは、戦闘マシンとして作られたのではなく、宇宙開拓や惑星開拓の拠点建築マシンを想定されて設計されている。
基本的には、搭載された人工知能に指示をすることで全工程が遂行されてしまう。その機能は、フェイズウォーカーにも淀みなく踏襲されているというわけである。
「とは言え、この建物の年季の入り具合から見ても、五年近くは経過しているはずだ。五年前と言えば、あの戦乱が収まった頃……。やはり彼女は、反乱軍の生き残りか……?」
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