浮遊戦艦の中で271


『ある。必ず来る。この目の前の人間のお前を滅することが出来れば、必ず平穏はやって来る。他の次元世界とは言っても、それは全くの干渉を持たぬものではない。それ相応に何かしらの影響をし合うようになっている。この世界に生を受けた我らには、それが分かるのだ……』

「ううむ、その言葉を信じよう。ただでさえ、俺たちの世界は混沌の悪夢の中にさらされている。不可解な疫病……。避けて通れぬ自然の猛威……、そして、血で血を洗うような人間同士の醜い争い……。いくら平静を呼びかけようとも、我らの世界の人々は互いに罵り合うことしかない。少し前まではそんな世界ではなかったはずなのに……」

『それが他次元干渉というものだ。人と人の間で無意識による感情の伝播があるように、我らの次元同士も意識的でない何らかの伝播があるようなのだ。我々、君たち人類がそう呼ぶ凶獣ヴェロンにはそれが分かる。我々の感覚は次元の壁を越えてそれが理解出来る』

「だから、諸悪の根源とも言うべき自らの存在を絶つと言うのだな。自らの失態は自らの手によって絶たねば、その輪廻は繰り返されると……」

『その通りだ、私と同じ考えを持つ人間の私よ。時は永遠に繰り返さない。他の次元世界とは言えど、宇宙が膨張をし続ける限り時間は等しく終焉への道のりを歩む。だから時間は不可逆的なのだ。しかしこのままでは、その終焉へと辿り着く前に人類は破滅の道を歩んでしまう。ある一つの存在によってな……』

「それが、ペルゼデール……」

『そう、ペルゼデールという存在は、君たち人類の言うところの神でもあり悪魔でもある。多次元世界など、奴にとってただの標本かシミュレーションの一つに過ぎぬ……』

「我々は蟻か……。それとも、ただ単にシャーレの中で培養されるバクテリアのようなものでしかないと言うのか。……しかし、それでも俺はやらねばならぬ、生きねばならぬ」

『その通りだ、私と同じ考えを持つ人間のお前よ。それには、ここに居るもう一人のお前の命を絶たねばならん。それが他次元の干渉をさえぎる一つの手立てなのだ』


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