浮遊戦艦の中で270


「ぐおお!! な、何だこれは……!!」

 リゲルデの白蓮改は、足元をすくわれたのだ。彼が謎の機体の懐に飛び込んだ時、その一瞬だけ宙に浮いた足元を小型のヴェロンの攻撃によってすくわれ、機体が勢いで天地逆さまの状態にされたのだ。

 そして天地逆さまになった機体は、謎の機体の突進力によって激しくぶつかり、そのまま大湿地帯の汚泥に放り出されたというわけである。

 その時、

「すまぬ、凶獣の俺よ。あのすばしこい機体の詰め寄りが思いのほか速すぎた。かなり近寄られ過ぎて、この大剣でとどめを刺すことが出来なかったのだ。あれだけお前とシミュレーションを繰り返した技だと言うのに……」

 謎の機体のパイロットが、小型の凶獣に申し開きようのない表情で話し掛ける。と、

『良い。それが現実というものだ。全てが我の思い通りになろうと思うのは傲慢そのものだ』

 小型の凶獣はテレパシーで答えた。

「しかし、単純なものだな、凶獣の俺よ。あのすばしこい機体に乗っている俺は、まるで戦略というものを理解していない」

 言うや、謎の機体を駆る男はフルフェイスの戦闘用ヘルメットのバイザーを上げた。するとその奥からは、なんとリゲルデと同じ顔の男がはにかんでいたのだ。

「凶獣の俺よ。あとはこいつで最後なのか?」

『そうだ、私と同じ考えを持つ人間の私よ。この世界に集められたお前と同じ人物……リゲルデ・ワイズマンはこれで最後だ。この男さえ滅せられれば、他の次元世界の平穏が約束される』

 その言葉に、謎の機体に乗ったリゲルデと同じ顔を持つ男は、少しばかり怪訝な表情で、

「本当に信じて良いのだな、凶獣の俺よ。いや、ここまで来て俺と同じ男と何度も対峙したことを鑑みれば、現実を夢まぼろしと捉えるつもりはない。だが、本当に我々の世界に平穏が確約されるのかと言うことが、果たして現実にあるのかどうかが心配なのだ」



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