浮遊戦艦の中で257


 大湿地帯の上をホバー走行で航続すると、予備燃料タンクを搭載していてもギリギリの計算になる。

「もしこれで凶獣に襲って来られれば、この機体は間違いなく大湿地帯の藻屑と化す。博物館行きの代物だけに、燃費が格段に悪すぎる……」

 こんな時に、補助人工知能に話し掛けられないのはかなり心細い。フェイズウォーカーに搭載された人工知能の役目とは、そこに搭乗する者の生命を守る為だけではない。こういった時に話し相手になり、搭乗者の心を落ち着かせるという役目も担っているのだ。

「情けない話だが、今まで俺はシャルロッテの愛によって支えられていたのだとつくづく痛感する……。この年齢としになって、一人で生きて行くのがこんなにも険しいものだとは……」

 昼間だとは言え、大湿地帯の周りには当然の如くビルのように聳え立つ大樹木が陽の光を遮っている。今のところセンサーモニターには、障害になるような敵影は見受けられない。が、いつなんどきどんな障害がはばかるのか知れたものではない。

 リゲルデは強がってはいたが、言い知れぬ孤独と不安とで、常時めまいと吐き気に襲われていた。鼓動が早鐘を打つように危険なリズムをかなで、血圧は射精をするのと同じぐらいまでに上昇し、危険予知によるアドレナリン過多によって常に戦闘興奮状態に陥っていた。 

 これがこの時代の大抵の戦士の現状である。ハイテクノロジーを駆使した戦闘マシンは、より強力な戦闘力を生むが、それによって肝心の人の技量と体力は低下する一方である。

 その低下した技量と体力を補うためにメーカー側は新しい技術を取り入れる。

 しかし、そのいたちごっこにもいつしか限界が訪れる。そして、その後に推奨されるようになったのが、あの〝ヒューマンチューニング技術〟だったというわけだ。

「確かに俺はヒューマンチューニング手術を受けた。だが、この状況ではそれをとても活かし切れん……。これが現実というやつなのか……」


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