浮遊戦艦の中で258


 リゲルデが焦燥によって胸を焼き焦がされていた、その時――

「グッ……!! 何だこれは!? 敵影か!? クソッ、こんな時に……」

 コックピット内に警報音が鳴り響く。急いでセンサーモニターに目を移すと、

「どういうことだ? センサーに反応している影は一つ……。それも、この動きは凶獣などではない。どういうことだ。どういうことなのだ……」

 その影は凶獣などのように生物的な反応を示さず、とにかく真っすぐにこちら側に突き進んでくる。それもとても尋常ではない速さで……。

「なんだこれは……!? まさか、シュンマッハが仕掛けて来た刺客なのか!?」

 しかし、それは到底考えにくい事であった。この状況でわざわざ兵力を使用し、こちら側に攻めてくるほどシュンマッハという男は無駄を嫌うのである。いくら念には念を入れよと言っても、そこまでするほどシュンマッハは緻密な感性を持っていない。

「ならば、この機影は何だ。何だと言うのだ!? 凶獣でもない。シュンマッハの刺客でもない。ならば、この俺を目標にして襲って来る敵の正体とは何なのだ!?」

 望遠カメラに映った機影は次第に形を帯びて来る。薄暗い大湿地帯の表面に、高速走行の波紋がしぶきを上げて近づいて来る。

 リゲルデは仕方なく針路を十時の方向に切り替えた。少しでも接近を遅らせるために。

「フェイズウォーカーの戦闘など、もう数年近くもやっておらん……。シュンマッハとゲリラ活動をやっていた時以来だ」

 言いつつ、彼は手動で戦闘モードに切り替えた。補助人工知能が作動しないため、全てを手動で行わなければならない。

 一応のこと、機体には遠隔ミサイルを二基積んでいる。だが、この旧式の白蓮改は元が準白兵戦用の機体である。主戦武器は、二振りのレーザーソードと両腕に格納された二十ミリ機銃が二門だけである。

「果たしてこの俺に出来るのか? いつも後ろで指示ばかり出していたこの俺に……」

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