浮遊戦艦の中で256


 リゲルデは、首から下げた銀のロケットを胸元から出した。そしてそれを見つめながら、

「思えば、お前は俺の生き甲斐そのものだった……。それを……。魔女め……」

 そのロケットの中には、リゲルデ本人とシャルロッテの凛々しい姿が写真の中に収められている。軍の正装によって整えられた二人の起立した姿には、どことなく互いの信頼し合う何かが醸し出されている。

 彼は、自分の本心に気づくのが遅かったのだ。いくら彼女が人工物のアンドロイドであろうとも、生きている相手以外に愛を捧げることは不可能であることを知らなかったのだ。

「笑いたくば笑え、この愚民どもよ。もう、この俺に理解ある味方など誰一人として要らぬ。俺にはこの世の全てが敵であって何一つ不都合なことはない……。俺は生きるために死を選ぶのだ。そして、死を選ぶために生き抜くのだ。あのヴェルデムンド最恐の魔女を地獄へと堕とし込むために、な……」

 リゲルデの駆るフェイズウォーカーは、無論、軍からの支給品である。しかし、旧式の白蓮改であるために、戦闘力ばかりか目的地までの航続移動距離すらギリギリの計算である。

 まして搭載された補助人工知能はヴェルデムンドの戦乱以前に使用された物であるために、まるで今回の移動ですらそのていをなしていない。

「こんな博物館行きにしてもおかしくないものを、よくも大事に取っておいたものだ。いや、これがあったからそれをわざわざこの俺に仕向けて来たわけか。シュンマッハめ……」

 リゲルデは、試運転をした時点で何度も補助人工知能〝セレウスⅢ型〟に、アルファへレナス駐屯地までの航行計画を問い掛けてみたが、まるで反応が無かった。この機体の人工知能は、もうすでに壊れてしまっているのだ。

「フェイズウォーカーの操縦の全てを人工知能無しで行わせるなどと……。シュンマッハめ。奴はこの状況を俺にやらせて楽しんでいるのか……?」



 

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