浮遊戦艦の中で249


 

 それはつまり、剣崎が考えるよりも数段上を行く進化の表れでしかなかったのだ。凶獣側は、この短期間に単なる獰猛なだけの生物から、人類と同じように思考や言語を持ち、的な視野を有しながら他の種族とのまで出来るようになっていたということだ。

(何ということだ……。俺たちがこの大地に足を踏み入れて早十数年が経過している……。しかし、こんなにも衝撃的で、こんなにも複雑な感情を抱いた経験は初めてだ……。俺は、飼っていた愛犬のシュハリが、人間の言葉で話してくれればいいと、いかにも幼い夢を心に描いていた時期があった……。だが、しかしこれはいかにも衝撃的な事実だ。これまで人間の天敵であった生物が人の心を理解し、そしてテレパシーでコミュニケーションを図って来るなどと、誰が予想し得たことか……)

 戦略家たる彼は、さらにこうも思う。

 奴らの生きる目的や手段も変わって来ているのだ、と――。

 なぜなら、ここで凶獣側が人類側にコミュニケーションをとって来たということは、何らかの意図があって交渉を図って来たのだと察しが付く。

 それはつまり、彼らがこれまでにない目的をもって生存方法を模索しているからだと考えられる。

 いわば、

(奴らは、この俺が考えるよりも、もっとも高い知能を身に付けた可能性がある……)

 ということだ。

『我々、君たちの呼ぶところの〝ヴェロン〟としては、君たち人類と争う考えはない。争っても無駄に力を消耗し、そして新たなるいさかいを生み出してしまうだけだからだ』

 剣崎らの頭の中に響いて来るそのは、いかにも落ち着いたトーンで語り掛けて来る。ヴェロンも、人間の何たるかを理解しているらしい。

「しかし、ヴェロン……いや、今俺の頭の中に語り掛けて来る声の主よ。お前たちは、先ほどまで我が軍に攻撃を仕掛けて来たではないか。これはどう説明するつもりだ?」


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