浮遊戦艦の中で230


 進捗モニター画面に、作業終了五分前の警告が表示される。

 フーリンシアは眉間に皺を寄せ、額に汗を滴らせる。

「さあ、もうすぐ注入作業が完了します! 皆さん、凶獣たちに進軍される前に必ず作業を終わらせるのです!!」

 彼女は外部の騒々しさに目もくれず、不安要素プログラム注入に専念する。

 進捗モニターのゲージには、完了まであと3パーセントの文字が表示されている。それは、時間にしてあと5分というところ。これさえ完成すれば、人工知能〝火之神〟は大型戦闘用人工知能としては破格の計算能力と予測能力を得ることが出来る。

 それに加え、今までの人工知能には無かった人間のような〝想像力〟を手に入れられる予定なのだ。言わば、それこそが思考の根本に〝不安〟を有した底力と言えるのだ。

 フーリンシアは目を爛々と輝かせ、作業完了を今か今かと待ちあぐねている。

 そして、ゲージの表示があと2パーセントを示した時、自らの軍服の胸ポケットから、ある小瓶を取り出した。

(あとは、これをこの火之神の回路に注入すれば、私の任務は完了する……)

 彼女が、その小瓶の中身を人工知能の回路に浴びようとした時、

「た、大尉! 何をやっておられるのです!! 火之神の回路にそんな液体をかけてしまったら……」

 技師チームの一人が、フーリンシアの手の先にある物に気付き、慌てて彼女を制しようとする。

「ええい、邪魔しないで!! これを不安要素プログラムと一緒に火の神に注入しなければ事は完結しないのよ!!」

 言ってフーリンシアは、部下を突き飛ばした。

「な、何をなさるのです、大尉!! だ、誰か来てくれ!! 大尉が……フーリンシア大尉が!!」

 突き飛ばされた部下は大声で技師チームの仲間を呼んだ。

 作業中の技師チームのメンバーは、フーリンシアたちの様子がおかしい事に気付き、こぞって駆けつけると、

「大尉、何をなさっておいでですか!?」

 フーリンシアの周りには、技師チームの全員が集まり、彼女をぐるりと取り囲んだ。そして、

「大尉。その手の中にある物は何なのです!? ま、まさか……その小瓶の中身のコバルトブルーに輝く液体は、幻とまで言われた〝エクスブースト〟では……!?」

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