浮遊戦艦の中で231


「な、何!? エクスブーストだと!?」

 技師チームのメンバーはその名称を聞くと、次々と驚愕の声を上げた。

 そう、エクスブーストとは、五年前の戦乱の際に希少鉱物〝ゲッスンライト〟を加工し使用された途轍もない効果を有した特殊添加液剤のことである。

 このエクスブーストという添加液剤が高性能の機材などに使用されると、その添加された機材は電圧異常のオーバーロードを引き起こしてしまうのである。

 確かに一時的には通常以上の性能を引き出すことが認められるが、一定時間を経過すると電圧異常を起こした後遺症でその媒体はスクラップ同然の使い物にならない代物と化してしまうのである。

「大尉、フーリンシア大尉!? 大尉が、なぜそんな物を持っていらっしゃるのですか!? いえ、なぜそのような物を、我々の大事な火之神に与えねばならんのですか!?」

 技師チームのリーダーであるアロンソ上級曹長が激しく問うと、

「なぜもなにもありません。私は元より、こうするためにこの艦に乗り込んだのですから」

 フーリンシアは飄々と答える。

「こうするためですと!? それでは火之神が壊れてしまいます! 火之神は我々、女王軍の守り神ともなる大型人工知能の基礎ユニットなのです。それを破壊しようとするとは、あなたは一体!?」

 言われてフーリンシアは、不敵な笑みを浮かべながら、人工知能〝火之神〟を背にゆっくりと立ち上がると、細腕を真横に伸ばしエクスブーストの小瓶を皆に見せつけながら、

「これ以上私に近づけば、即刻この液体を火の神にぶちまけます。だから、これ以上私に近寄らないでください!!」

 フーリンシアは、まるで追い詰められたネズミのようにワナワナと震えながら技師チームのメンバーを睨みつけた。

「何をおっしゃっているのです、大尉!? あなたはそこにある火之神の生みの親ではありませんか!? それをどうして!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る