浮遊戦艦の中で227



 剣崎はまだまだ不安だったのだ。

 なにせ相手は人間ではない。まして勝手知ったる今までのような相手でもない。そんな予測もつかぬ敵を相手に戦略を打つなど、嵐の中でたんぽぽの綿毛を追うようなものである。

(本来、見えない相手が見えたのはただの入り口に過ぎんのだ。要は、相手がどう攻撃を仕掛けて来るかだ……)

 剣崎はそれを部下たちの前で口にすることが出来なかった。

 ミコナス准尉らも、そのようなことは十二分に理解している。だが、全指揮を任されている剣崎の立場でそれを公言してしまえば、たちまち彼らの士気は下がってしまうのだ。どんなに戦略家という超現実的な立場であっても、所詮は人を動かす為の知恵者でなければならない。

 しかるにこのような場合には、虚勢を張ってでも事に当たらねばならぬ時もある。

「ミコナス准尉」

「は、はい……」

「全部隊に通達。これより我が軍は、鶴翼の陣形を取り、そのままヴェロ二アス密林に突入する」

「えっ……!? 突入ですか!?」

「そうだ、突入だ。何か問題でもあるかね?」

「い、いえ、ですが……突入ともなると、我が軍の被害が……。それに、まだ予期しない敵の存在があるかもしれません」

「ほう、だからこのままこの場所に待機しろと?」

「い、いえ……。でも……」

「でもも、しかしも、へったくれもない。これは命令だ。軍の指揮権は、この俺に全て委ねられている。一介の士官である君にどうこう意見されるものではない」

「そ、そんな!? 大佐は、見す見す同朋に死ねと仰るのでしょうか!?」

「止むを得まい。我が艦はそれでもマリダ陛下との約束の地まで到達せねばならんのだ」

「そ、そんな! 大佐! 大佐、しっかりしてください!! 剣崎大佐はそんな方では……!?」

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