浮遊戦艦の中で226


 しかし、剣崎の望みとは裏腹に、新しい感覚を得られたのは全体の約八割に留まった。どうやら残りの二割の兵はかなりの時間を要するようだ。

「これが現実か……。自然の神様もこちらの思惑通りには行かせてくれんようだな」

「はい。先ほど大佐が仰られたように、これが個人差の限界なのだと思います。決して遅いから悪いというわけじゃありませんけど……」

「だが、まだ認識を得ておらぬ兵たちの焦燥は計り知れぬものがありそうだ」

「そうですね。この状況で新しい認識を得られなければ、置いてきぼりを食らってしまっているのも同然ですからね。まして、認識力が低ければ命を落とすリスクさえも高くなる……」

「いや、もしやもすれば、認識出来ていると言っている兵の中には、認識出来ていなくても認識出来ていると言っている者もいるのかも知れん……」

「ああ、それは分からない話でもありません。周りに迷惑をかけたくない余りに。自分だけが置いてきぼりにならないために。自分だけ認識が出来ないことを悔やむあまりに……」

「数限りあるとは言っても、これだけの大集団だ。そう考えてしまう一定数が居てもおかしくはない」

 言って剣崎は指揮官座横のコンソールに触れ、前面大モニターに戦略マップを映し出すと、

「だが、ここまで時間を要してしまえば、さすがにもう限界だな。まだ覚醒前の兵が、見えぬ敵を相手に悪戦苦闘する様を見るのは何とも心苦しいがな……。各フェイズウォーカーの人工知能にデータを共有させて、それを戦闘補助とさせるしかあるまい」

 艦橋ブリッジに送られて来た擬態化した凶獣の配置が一様に映し出されている。現在、確認出来ているだけでも擬態化した凶獣の数は二百六十二体。これが一斉に攻撃を仕掛けて来れば、ここは狂ったように火の粉を撒き散らした地獄の戦場と化す。

「このように擬態化してまで奇襲を仕掛けて来ようとしているということは、こいつらは自分たちの戦闘力に余程自信が無いということだ。だが、まだ何かあるはずだ。進化したこいつらが、単純明快な奇襲を仕掛けてくるだけのはずがない……」


 

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