浮遊戦艦の中で215
何かの間違いでは――
剣崎は言葉にしたかったが、咄嗟にそれを飲み込んだ。ここで彼がそれを口にしてしまえば、この艦橋で任務に就いている兵たちに途轍もない動揺が走ることになる。
彼は至って冷静な心を保とうと、奥歯を噛み締めて大きく息を吸う。
「相分かった。斥候班の情報によれば、敵影は凶獣ヴェロンの姿をした人間もどきだと言うのだな。奴らめ、今度は生意気にも食った人間の遺伝子まで取り込みおったか。馬鹿め、それで進化の過程を経たつもりか!?」
無論、この言い様は彼の強がりでしかない。もし、斥候班の情報がありのままであったのなら、これは途轍もなく驚愕すべき事実だからだ。
(クソッ、人間の頭をした凶獣ヴェロンだと……? これではますます、俺が危惧しているケースA4に当てはまってしまうではないか。そしてさらに、迎撃に出た兵たちの動揺が心配だ。兵たちに人間の顔をした凶獣が討てるかどうか……)
何より剣崎が一番不安だった。彼は軍師である。軍師が一番に考えねばなぬのは、味方の士気である。味方の兵の士気が下がれば、いくら強力な武器を所有していようとも十分な効力を発揮出来ない。
もしやもすれば、敵方はそこまで考慮する〝知恵〟を授かってしまったのかもしれない——
そう考えるだけで、剣崎の頭の中は不安で一杯になる。
この先、凶獣たちにどんな進化が見られるのか。この先、凶獣たちはどんな攻撃を仕掛けてくるのか——。
これまでの経験やデータなどにはない未知なる相手に対し、戦略を考えるのは至難の
(ええい、俺は決して絶望などせんぞ! どんなに相手が進化を遂げようとも、必ずこの状況を突破してみせる!!)
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