浮遊戦艦の中で214


 剣崎は、ミコナス准尉を通してフェイズウォーカー各機を順次出撃させた。

 そして各機をウィク・ヴィクセンヌの周囲の警戒に当たらせると、どこから敵が来ても良いようにと、三重の警戒網を築き、フェイズウォーカー各機には砲撃用の重装備態勢で迎え撃つようにと通達したのだ。

(我々、マリダ陛下に忠誠を誓った者どもにとって、このウィク・ヴィクセンヌは最後の砦だ。もしこの移動要塞を失えば、いくらマリダ陛下が優秀であったとしても、そのいしずえを失うことになる。帰る場所が無くなれば、人間という生き物はそこに絶望を見てしまう。今は、この帰るべき場所を失うわけには行かんのだ……)

 剣崎は、この時点でマリダ以下の親衛隊の状況を知らぬ。それでも彼は、マリダの生存を信じてこの艦を維持していかねばならない。

 もし、彼がヒューマンチューニング手術を受けたミックスであったとしても、事実上三次元ネットワークの回線が絶たれたこの場所では、遠方に居る相手の状況などはかり知ることが出来ぬ。

 ここは相手の生存を信じて、どんなことがあっても作戦を遂行して行かねばならないのだ。

「大佐、剣崎大佐! たった今、斥候班から入った情報によれば、敵影の正体は凶獣ヴェロンであると判明しました。しかし……」

 ミコナス准尉の表情が真っ青になる。

「しかし、何だ!? この状況下で、不明瞭な言葉は慎みたまえ!」

 剣崎も余裕がないせいか、多少声を荒らげてしまう。

「失礼しました……。しかし、敵影が凶獣ヴェロンであることは確かなことなのですが、それらは皆、人間の頭を持っているとのことです……」

「な、なんだと……!?」

 

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