浮遊戦艦の中で201
マリダにしては珍しいことであった。誰よりも若く、士官としての経験が浅いセリーヌ・アルケウス中尉ではある。が、それでもこんなに疲弊した〝女王陛下〟を目の当たりにした記憶が無かった。
(マリダ様は、相当に疲れていらっしゃる……。ここで私が陛下をお支えしなければ、この隊はバラバラになってしまうかもしれない。サガウル総隊長が殉職されてしまった今、これは必須事項だ)
いかにも生真面目なセリーヌはこう考えた。
彼女にとって戦闘指揮はお手の物だが、まだどうにも部下への人心掌握術には長けていない。本人は、育ちも良く美しい器量の持ち主であるが、そういった生い立ちであるがゆえに教本通りの考え方でしか事を進められないといった部分が未だに抜けていないのである。
親衛総隊長のサガウルの死は、そういった意味でかなりの痛手であった。
サガウルは、全親衛隊の父のような役割を担っていた。そんな彼の死は、エリートの集まりである親衛隊の柱を失ったも同然である。
剣崎大佐率いる第二大隊との合流に向けて、親衛隊も先を急がねばならない。
これから女王マリダを軸にした政権を奪回するに向けて、謎の浮遊戦艦に囚われた羽間正太郎を救出するのは必須事項である。彼が居ることで戦力が増すばかりではなく、手練れの戦士が中核に存在することで戦略的にも様々な戦法を仕掛けられる。名だたる戦士の彼を当て馬にすることで、一手に敵の注目を引き付けられる。
羽間正太郎という存在は、そういった意味でもこれから重要なカギになって行くのだ。
(それだけではない……。羽間少佐が隊にお戻りになることで、マリダ陛下のお心の安寧も図れるというものだ。ならず者のシュンマッハを打倒するには、どうあっても浮遊戦艦への潜入作戦を成功させねばならない……)
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