浮遊戦艦の中で202


 セリーヌ中尉が、意を決して戦闘指揮を執りに入ったころ、浮遊戦艦を目前にして剣崎ら第二大隊の中核である陸戦艇ウィク・ヴィクセンヌは思わぬ足止めを食らっていた。

「ば、馬鹿な……。このような場所に、凶獣ヴェロンの巣が大量にあったとは……」

 彼らの行く手を阻むように、巨木の陰に隠れてヴェロ二アス密林が鬱蒼と立ちはだかる。

 ヴェロ二アス密林とは、凶獣ヴェロンが餌を食い、そのまま地上に根を張って羽化するまでの行程を行った場所を指す。つまり、ヴェロ二アス密林があるところ、かなりの数の凶獣ヴェロンが隠れ潜んでいることを意味するのだ。

 剣崎は、まだ漆黒にむせぶ巨木たちの向こう側に、おろどおどろしい殺気を感じていた。

「ううむ……。このまま先を進もうとすれば、必ずや凶獣たちが我々を手ぐすね引いて待っている。これは迂闊うかつだった。以前に第十五寄留が壊滅したとあらば、その手前には凶獣たちの犠牲になった住民たちの亡骸が山のようにあったはず。ということは、その亡骸を食った凶獣たちが根付いて大量に羽化する。俺たちは、シュンマッハのような化け物の皮を被った人間に気を取られ過ぎて、この世界で一番警戒せねばならんことを怠っていたのかもしれん……」

 ウィク・ヴィクセンヌを始めとした陸戦艇は、一様にその場に停泊せざるを得なかった。

 第一級警戒態勢の発令である。

 いつなんどき、大量の凶獣たちの襲撃に見舞われるやもしれない。そのためには、どうあっても警戒態勢を敷いて気を引き締めておかねばならないのだ。

「だが、このままでは兵たちの体力も精神も持たぬ……。我々の当面の目的は、羽間正太郎を始めとした浮遊戦艦に囚われた人々を救い出すことにある。しかし、ここで戦力も体力も使い果たしてしまえば元も子もない……。一体どうすれば良いのだ……」



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